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鳥飼です。
以前の記事で少し触れた、2007年の夏の甲子園「佐賀北vs広陵」のラジオ音声動画がYouTube上にありましたので、あなたにもぜひ、聴いていただきたくてご紹介することにしました。
~~~ 目次 ~~~
2007年夏の甲子園決勝「佐賀北vs広陵」のラジオ実況をご紹介!
なぜ、あえて「ラジオ」をご紹介するかというと、このラジオ実況を担当されているのが小野塚康之アナウンサーだからです。
小野塚康之アナは、実は1980年代前半にNHK鳥取放送局におられました。当時、小野塚アナは新人です。
ちなみに、今、甲子園の解説者をされている中に、米子東高校出身の方がおられます。杉本真吾さんです。もちろん、鳥取の高校野球ファンならそのことはご存じだと思います。
でも、その杉本真吾さんと小野塚康之アナウンサーが、鳥取でちょっとしたつながりがあったことまでは知られていません。
その「つながり」とは・・・
杉本真吾さんは1983年の夏、鳥取県大会を制して、甲子園に行きました。そのとき、鳥取県大会の決勝のテレビ実況を担当されたのが小野塚康之アナウンサーなのです。
最近、小野塚さんはある試合の実況で、杉本さんに「私は杉本さんを甲子園に送り出したんですよ!」とジョークを交えて語っていましたね。
さて、以下が今回のお題「2007年夏の決勝、佐賀北vs広陵」そのYouTube動画です。ラジオ実況ですが、テレビの映像が重ねられています。
小野塚康之さんの実況「2007年夏の佐賀北vs広陵」は、もはや伝説
さて、どうでしょうか?この試合のことを知らない人、また小野塚康之さんについて知らない人に向けて、いくつか背景を書いていきますね。
上の動画の試合の実況をされているそんな小野塚康之さん。高校野球ファンからはとても愛されていますね。いつもテンションが高くて、語り口調に高校野球への愛がこもっています。「ツーレツ!」という決め台詞が超有名です。
小野塚さんの実況はいつも聴く者を楽しませてくれますが、その中でも特に2007年夏の決勝、佐賀北vs広陵の実況は伝説となっています。
伝説となった理由は、「奇跡的な展開となったこのゲーム」を、これ以上ないくらいにうまく表現したからですね。
その「表現」とは・・・
「あり得る最も可能性の小さい、そんなシーンが現実です!」
という言葉です。
佐賀北が逆転満塁ホームランを放つという、ありえない展開
当時、僕はこの試合をテレビで見ていましたが、音声はラジオで聴いていました。当時は地デジ移行する前であり、ラジオとテレビの音ズレがなかったので、僕はよくそんな風にして楽しんでいました。
特に、ラジオの実況が小野塚さんだった場合は、音はテレビではなく、ラジオの方を流しました。で、佐賀北vs広陵の決勝がまさに、小野塚さんが「ラジオ実況担当」だったんですね。
いや~体が震えましたよ。前評判の低かった佐賀北が「逆転満塁ホームラン」を打ったという、この衝撃の展開を、小野塚さんはまさに言葉にしてくれていました。
もう一度書きます。
「あり得る最も可能性の小さい、そんなシーンが現実です!」
です。
いやほんと、そうなんです。あり得ない。可能性が最も小さいシナリオだったんです。なぜかというと、佐賀北打線は、広陵の野村祐輔投手(現・広島)に手も足も出ない状態でしたから。
佐賀北は、広陵相手に何もできない状態だった
しかも8回裏。佐賀北は0-4と負けていました。
で、広陵の野村祐輔投手はというと、球威は全く衰えていません。もう、佐賀北が勝てるなんて、この時点では誰も思っていませんでした。
「佐賀北が勝てるとは誰も思っていなかった」ということを示す例として、女優の中越典子さんの逸話があげられます。
佐賀北出身の女優、中越典子さんの逸話
中越典子さんは佐賀北出身です。で、この試合を球場で観戦していました。で、0-4で8回裏になった時点で、「夢をありがとう」と思ったそうです。
これはどういう意味か、というと、「前評判の低かった佐賀北が、ここまで躍進してくれた。た。”準優勝”という快挙を成し遂げようとしている。本当にありがとう。」
という意味です。つまり、つまりですよ?佐賀北は「準優勝」だとみーんな思ってたんです。と同時に、それで十分だし感動的だとも思っていました。
実は、中越さんのこの気持ちはまさに僕も同じでした。
2007年夏の大会で、鳥取の境高校は大敗していた
僕は、毎年鳥取代表を応援しています。しかし、いつも初戦負けです。しかも、この2007年夏の大会は、鳥取の高校野球ファンには今でもトラウマとなっている「境高校の大敗事件」があった大会でした。
というのも、2007年の鳥取県は、地方大会の時点で好投手、好打者がそろった「当たり年」だったんです。で、その「当たり年」の鳥取地方大会を制して甲子園にのぞんだ境高校が、甲子園で大敗してしまったわけです。
境高校の相手は、山梨代表の甲府商業。甲府商業は甲子園から遠ざかっていた公立校で、マスコミの前評判も低かった高校です。そこに、境高校は大敗してしまったんです。スコアは1-14。でも、感覚的には0-20くらいに感じるくらいの、ショッキングな内容の負け方でした。
もう、鳥取代表は向こう30年くらいは、初戦で勝つことすらできないんじゃないか?
僕はそんな風に思いました。僕の知り合いの鳥取人の中には、2007年以降、高校野球を見るのをやめてしまった人もいます。
もう、希望がないというか、「しょせん、甲子園は強豪県だけが勝ちあがれる大会なんだ。鳥取県が脚光をあびることなんて、ありえないんだ」という強烈な寂しい思いに僕も僕のまわりの鳥取人も包まれてしまいました。
僕は、佐賀北を「鳥取代表の生き写し」として応援した
そんな中、ふとニュースを見ると、鳥取県と同じく小さな県である佐賀県が、意外にも勝ち上がっているではありませんか!
僕は佐賀北を「鳥取代表の生き写し」だと思い、境高校の大敗に傷ついている自分の心を、佐賀北の活躍によって癒そうと考えました。
なぜなら、鳥取と同じ、規模の小さな県の佐賀北が活躍すれば、「鳥取代表もやれる」と思うことができるからです。
佐賀北は、準々決勝で帝京に激的に勝利する
・・・で、準々決勝を見ました。相手は帝京です。びっくりしましたよ。佐賀北が帝京をやぶったんです。帝京ですよ、帝京。何度も言いますが、帝京ですよ?
もう、この時点で僕は大満足でした。鳥取代表の希望をつなぐことができました。
「甲子園は、強豪県だけの大会じゃない」
ということを確認できたからです。
佐賀北のクライマックスは、準々決勝の帝京戦で終わりだと思った
と同時に、佐賀北のクライマックスはここで終わりだとも思いました。つまり、強豪の帝京に勝ったわけです。しかも、外野手や投手の超ファインプレーがあり、最後はサヨナラという、劇的な展開での勝利です。
考えてみてください。どんな映画も、クライマックスは一回ですよね?佐賀北を映画の主人公と仮定すれば、帝京に劇的な展開で勝った時点で、映画視聴者には十分に感動を与えることができているわけです。
あとはエンドロールが流れて、うっすらと、次戦で佐賀北が敗北した様子が紹介され、佐賀北の選手たちが甲子園の土を持って帰る様子に視聴者は涙する・・・
というのが普通の流れです。
なので、神様は、最大の運をこの時点(準々決勝・帝京戦)で佐賀北に与えた、という雰囲気でしたね。もう、これ以上はないな、と。次の準決勝で長崎日大に勝ちはしましたが、まあ、残った運が作用したんだな、と僕は思いました。
そういうわけで、決勝の時点では、佐賀北に運が残っているなんて思えませんでしたし、もともと戦力的にも下馬評の低いチームです。甲子園常連でもありません。しかも公立校。選手たちの体格もひょろひょろです。
決勝の日。佐賀北は8回までワンサイドゲームで苦戦する
で、決勝の日が来ました。
実際、その決勝で、佐賀北は広陵の野村投手を全く打てず、ヒットはたったの1本。ワンサイドゲームでしたね。
というのも佐賀北には次から次へとピンチが訪れていたんです。佐賀北はそれを堅守でしのいでいました。
これはテレビ解説の原田富士雄さんがおっしゃっていたことですが、「よく”抑えている”というより、よく”防いでいる”という感じだ」と。
つまり、普通に堅守で抑えているのではなく、もう、限界ギリギリで、すんでのところで得点にならないようにしている感じだったんです。6回までは0-2でした。
7回表、ついに佐賀北の牙城が崩れる
そうやって得点を防いでいる中、7回表。ついに佐賀北の牙城が崩れます。広陵が2点を取ったんです。
球場の雰囲気は、「勝負あった」です。
というのも・・・
野球の試合でよくあるのが、堅守でしのいでいるチームが、逆に流れを呼び込んで逆転する、という展開ですよね。
そういう意味では、佐賀北は得点を0-2のままで防いでいたのですから、まだ「希望はあった」かもしれません(僕は絶対勝てないと思って見てましたが)。
しかし、7回表に広陵が2点を追加したことで、もう、その「シナリオ」はなくなったわけです。つまり、「堅守のチームが逆転する」というシナリオ。これはないのです。
鳥取代表にも、よくある展開
こういう展開は僕は鳥取代表の試合で何度も見ています。堅守のしのいでいても、我慢しきれずに得点が入ってしまうケースです。
その瞬間に、鳥取代表の緊張の糸がぷつっと切れて、ダムが決壊したかのように相手チームのすさまじい勢いが押し寄せてきます。
もうこうなると、逆転はまずないです。絶対ないです。
特に、2007年の佐賀北に関しては、僕は「鳥取代表の生き写し」として見ていましたから、広陵が追加点を入れた時点で、「ああ、ダムが決壊した」と思うだけでした。
まあそもそも、準々決勝で帝京に勝った時点で僕はもう大満足しているので、この「勝負あった」瞬間をもって、まさに中越典子さんと同じ気持ちになったわけです。つまり、
佐賀北野球部、”準優勝”という感動をありがとう
という気持ちですね。
佐賀北の優勝は、ないだろうと思った
そういう状況ですから、8回裏、佐賀北の攻撃に入っても、「4点差で済んでいるだけでもすごい。ましてや、ここから逆転して勝つなんてなおさら、考えられない」と僕は思いました。
安打を1本に抑えている広陵の野村投手は全く疲れていない様子でしたし。
広陵の野村祐輔投手が、ボールがやや下に行きはじめた
ただ、広陵の野村祐輔投手に、ほんの少しだけ変化が起きます。それは、ボール一個分だけ、球が低く行くようになったのです。
これはいまだに議論が分かれるところですが、8回から審判のストライクのジャッジが急に厳しくなった、という人もいます。
ちなみに僕は、両方だと思います。つまり、野村投手はやや低めに行きすぎている感じはありましたし、同時に、審判はそれを厳しく「ボール」とジャッジしてしまうようになってもいました。
ただ、いずれにしても、そんなものはよくある「誤差」の範囲内です。なんといっても広陵は追加点を入れましたし、野村投手の球威も衰えていないのですから、あとはよくあるシナリオどおりに、佐賀北が敗北するだけなのです。
しかし!佐賀北が逆転!
ところが、いろんな要素がからまって満塁になり、まず押し出しで一点入りました。で、この大会一番のクライマックスが訪れます。
副島浩史選手の逆転満塁ホームランです。
あ・り・え・な・い
これはそんな展開なんです。テレビ中継の球場リポートによると、広陵応援席では何度もスコアボードを確認している人がたくさんいたそうです。つまり、広陵にしてみれば逆転されたことが信じられないんですね。
小野塚康之アナは、この状況を神がかり的にうまく表現した
さて、こう見ていくと、僕が冒頭でご紹介した、小野塚康之アナウンサーのセリフ
「あり得る最も可能性の小さい、そんなシーンが現実です!」
が、いかに、その状況をうまく表現しているかがわかるでしょう。だから僕は体が震えたんです。
映画でいえば、なんでしょう?映画館でエンドロールが流れた後に、出演者一同がサプライズで会場に現れた、みたいな感じです。
まさに、「2段構えのクライマックス」でしたね。
僕はそんな風に、佐賀北の躍進を見て思いました。
それと同時に、鳥取代表もまだまだ可能性はある、と希望をつなぐことができました。鳥取と同じくらい田舎の県が、ここまでできるということは、鳥取にだってできるはず。
実際、できると思います。
米子東は佐賀北と同じ、公立校。頑張れ!
今は、2018年秋の段階です。鳥取県では米子東(よなごひがし)が来春の選抜甲子園に出場が確実と言われています。
米子東も、佐賀北と同じく公立校です。なので、選手・関係者たちの参考になるはず、と思って今回、このうような記事を書いてみました。
正直、僕はかなり期待しています!
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